カナダ遠征 前編(バガブー州立公園)
- Admin
- 3月7日
- 読了時間: 7分
更新日:3月9日
参加者 kinoshita ウメ シロクマ改
#0 そもそもの始まり
数年前の話、とある人物からカナダにはBaguabooという山群があり、彼の地はクライマーの桃源郷と聞く。調べてみると、氷河に雄々しくそびえる岩峰群に垂涎物のクラックが走っている。しかもアプローチ、標高、難易度と手頃であり、万年ヘボクライマーの自分でもどうにか手が届きそうである。ここに行かずしてどこに行くのだ?さっそく実現へ向け動き始めた矢先、例の迷惑な大陸からのウイルスが蔓延し、海外どころか日々の外出さえもままならない事態が続くこととなる。あれから約3年、国を挙げて大騒動した割には、全く大したことなかったようで、テレビで「このままでは日本人は死に絶える!」とか騒いでいた専門家とやらは何処へ行ったのだろう?
R6(2024)7/13 出発→FYK→HND→YVR→カムループスのモーテル
連日の酷暑と豪雨でトレーニングもままならず、さっぱり仕上がり感を得られぬまま出発の日を迎える。SNSでは現地はまだ雪に閉ざされているらしい。過去の記録も「とにかく寒かった」「ダウンが手放せない」とあり、この酷暑からちょっと想像しがたいが、薄手の化繊インナーに加え、ダウンジャケットさらに1番シュラフなどを詰め込むとザックは膨れ上がりパンパンである。ようやく乗り込んだ飛行機は冷房が効きまくっており、早速寒くてたまらない。疲れ切っていたが、妙に気が立って全く眠れず、夕食だ何だと機内のイベントをこなしているとバンクーバー(YVR)着。さっそくレンタカーに荷物を積み、なれない左ハンドルと右側通行に戸惑いながら1号線をひたすら東へ向かう。カナダの交通マナーは良好でゴミも落ちておらず快適である。マイル表記ではなくkm表記なのも有難い。郊外のアウトドアショップ(MEC)にてガス缶などを購入した後、500㎞ほどを運転しカムループスのモーテルに投宿する。
7/14 カムループス→ゴールデン→バガブー州立公園→アップルビーBC
時差ボケでほとんど眠れないまま起床時間を迎える。日本よりは涼しいかと期待していたが朝から暑い。今日もひたすら500km近くを走りゴールデンへ。給油後、未舗装のダート道をさらに50km走ってようやくバガブー州立公園の駐車場着。思えば遠くへ来たもんだ。しかし驚くばかりの暑さで気温は36℃もある。降車するや、予想外の蚊やアブ、ブヨの大群にたかられ鬱陶しくてたまらない。ハリネズミにタイヤを食い荒らされないように、置いてある金網で車を囲み、準備もそこそこに歩き出すが、はじめは緩やかだったトレイルも次第に急登となり、大汗をかき喘ぎながら登ってゆく。高山植物が咲き誇る彼方には、屹立する岩峰と、流れ下るアイスフォールと見事な光景が広がっているが、この暑さと重荷の前にはもはやどうでもよく、思考停止状態で唯々足を動かすのみである。3時間ほどでやっとカイン小屋着。そこからたっぷり1時間半かかってアップルビーキャンプサイト着。平らな岩盤にテントが40張ほど張ってある。設備としては岩陰にトイレが2か所、クマ避けの食料ボックスと、物干用の鉄柱があるのみで、水道は無く水は氷河の雪解け水を浄水器でろ過して使用する。
(1泊1人10ドル)

7/15 クレセントスパイアの岩場
テントサイトから正面にバガブースパイア、その左側がスノーパッチスパイア、右側がクレセントスパイアが控えているのだが、まずはグレード感がどういうものかとクレセントへ向かう。雪渓を30分ほど歩くと壁の直下へ着くのでそこから直登し取りつきへ。草の一本どころか苔すら全く生えていない白い花崗岩に無数のクラックが走っており、クライマーが思い思いに取り付いている。ほぼ中央にあるMc tech Directに取り付く。1ピッチ目は5.9とあるが中々に厳しく、最後の被った箇所で消耗する。すでに暑く喉がカラカラである。2P目は無理せず梅本選手に任せるが、直上するも完全なワイド(OW)で苦戦している。そもそも大きなカムが全く足りない。クライムダウンさせ左手にあるメジャーなMcTech Arete(10b)に変更する。攻める気は無いようでカムエイド全開で登ってゆく。抜けたと思ったがそこから全く動かなくなり、後で聞くと他のクライマーがいたので待っていたとの事。フォローしてみると成程素晴らしいフィンガークラックで、有り難いことにスタンスが要所要所にあり、そう難しくない。紺碧の空に白く輝く岩壁、全く以て素晴らしい宝石のようなピッチだった。核心ピッチは越えたが、あと5ピッチほどありここから下降することにする。

7/18 沈殿日
予定ではバガブースパイアだったが時差ボケと暑さのせいかここ数日でほとんど眠れず、おまけにワクチン接種後おかしくなった心臓が不整脈を起こしのたうち回る。ニトロをもらい安静にすると少しは落ち着いたが、大事をとって沈殿(休養日)とする。昼食はシロクマ氏心づくしのお好み焼き。夕食は大豆ミート入りキーマカレー。調理をしているのは我々だけのようで他はフリーズドライのマカロニなどを食べていた。
7/19 バガブースパイア
3時起床。悪夢にうなされ、少しは眠れたことを知る。装備を整えて4時発。氷河を登りBCコルを目指す。氷河の上端から、登れそうなラインを見繕ってロープをつけ登りだす。難しくは無いがボロボロで悪い。後続の4人組はアプローチシューズのままノーザイルで追い抜いてゆく。3ピッチほどでコルに付き、雪稜を200mほど上がりさらに岩稜を登ると取りつきである。見上げると巨大で単純な岩の造形が空に向かって屹立しており、その周囲との調和とかを一切無視したような存在感にはいささか呆れる。梅本のリードで登攀開始。Ridge Clestを登れとあるが正に岩のとさか部分をひたすら登ってゆく。難易度的にも5.8以下で長大なチンネ左稜線といったところか。天候にも恵まれ素晴らしいロケーションであるが只々長い。若干飽きが来たところで頂上付近まで来たので、稜線の東側に入り下降に入る。ここからが延々と続く下降であるが、地形が複雑で非常にわかりにくい。しかし最も合理的と思われるラインを下降するとその先にラペルステーションがあり、次第に慣れてくる。今度は向こうの空がオレンジ色に染まり雷鳴が聞こえてきた。カッパを着込み、さらに下降を続ける。


(ピンクのフラミンゴ)
もう幾度懸垂とクライムダウンを繰り返しただろう、ついにパラパラと雨も降り出した。日が沈んで残照の中、ようやくBSコルに到達する。懸垂点を探り出し、ロープをセットしようとすると、岩の割れ目からピンクのフラミンゴが首を伸ばしこちらを見ている。アルコール依存症は「緑のゾウの幻覚が見えたら末期」だと聞いたことがある。一瞬それかと思ったが、本当に発泡スチロール製のピンクのフラミンゴが置いてあり、その独特のセンスに感心しながら懸垂を2ピッチ、後はヴォーエル氷河を惰性で下る。大体の方向は見定めておいたのだが、横着してコンパスで方位を切るまでやっておらず、いつの間にか氷河の低い方へと大きくコースを外しており完全に迷う。当然真っ暗であり、雨も降っている。
胸につけた無線機からは博多弁のラジオ放送のようなものが聞こえる。よく聞こうと立ち止まると聞こえなくなる。はじめ無線の混信かと思ったが、ここカナダで日本語が聞こえてくるはずもなく、幻聴だということに気づく。それからは幻聴ラジオを楽しみながら歩く。そうこうしているうちにテントサイトへ向かうトレースを見つけ、日が変わった0:30ころ、ようやくテントにたどり着く。20時間半行動だった。

7/20
前日の疲れから全く動けず。かといって相変わらず1,2時間しか眠れない。我々に先行していた白人のクライマーは今日もどこかへ登りに行っており、そのスタミナには心底驚かされる。バガブースパイアでこのていたらくでは本命のサウスハウザーなんかとんでもないという結論に至り、翌日下山しスコーミッシュへ転戦を決定する。
7/21 下山
先払いしたテン場代が惜しいが、日数を残して下山である。カイン小屋へ立ち寄ったあと、ひたすら下山する。3時間ほどで駐車場着。なんとシロクマ氏はこの時のために、車中にコーラを秘蔵しており、この酷暑の中、うまいったらなかった。とりあえずゴールデンから来た道を戻りながらネットを駆使し本日の宿とスコーミッシュでのキャンプ場、ホテルを予約することに成功する。この日はカムループスでモーテル泊。薬物中毒の若い白人女が力なく徘徊している脇を抜けてチェックイン。
※カナダ遠征(後編)へ続く。
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