御在所岳中尾根
- Admin
- 2021年11月28日
- 読了時間: 5分
期間R3.10/23~10/26
参加者 kinosita、U、Y
・不惑にして完全に迷う
気が付けば40も半ばである。10代で山に魅せられてから下界の多くのことを犠牲にして山に向かい続けてきた。しかし最近全く成果が出ず、山にいても高揚感をあまり感じなくなってきた。今さら下界に居場所はなく、自分が至上と信じた世界からも拒絶されつつあるようだ。そろそろ自分の道を探らねば。
迷ったときは原点回帰。とにかく美しく大きな岩を登りたい。そこで脳裏に浮かんだのが噂に聞く御在所岳の岩場である。
・怒涛の700km
21:30離福→翌06:30蒼滝トンネル駐車場着
Uさんと交代で福岡から三重まで約700キロの道のりをひたすら東進する。Flambéには個性的な人が多く、道中の話題には事欠かない。楽しい話に笑い転げながら約9時間かけて登山口にある駐車場にたどり着き、少し眠ろうか目を閉じると、窓ガラスをノックする音が。外には満面の笑みを浮かべた人物が立っており、よく見ると名古屋から来たYさんである。激ヤセしていたので聞くと「コロナで引きこもっていたら痩せた」との事。今一つ意味がわからなかったが、もはや眠ってなんかいられず早速装備を整えて歩き出す。
・カリフォルニアドリーミングとの邂逅
10:30中尾根取付き→17:00終了点→21:15駐車場着
天気も良く、大勢の登山客が列をなしている。寝不足でフワフワする頭でぼんやりと彼、彼女らを眺めると、どの顔も一様に明るく楽しそうだ。陽キャが山に来る時代である。
藤内小屋を過ぎ、一般道から外れ籐内壁へ向かう。テスト岩から左方向に延びる踏み跡をたどり樹林帯を抜けると、ひときわ存在感を放つ岩壁が現れる。御在所の至宝カリフォルニアドリーミングである。日本にこんな見事な一枚岩があるなんて、、こいつはいつか登りたいが…。しばらく眺めた後、基部を右へトラバースし、涸れ沢を一つ渡った先の尾根を上がると車1台分ほどのテラスにでる。ここが中尾根P4基部の取りつきである。

・登攀開始(P4→P1へ)
P4(Ⅴ-)
出だしからいきなりワイドクラックである。ザックが邪魔だが直近でワイド(Pig Clack)を触っていたせいもあり結構簡単に感じる。一応2ピッチに区切ったが、繋いだほうがよかった。
P3(Ⅴ)
P4から右手へクライムダウンするとP3の基部に出るが、ここもワイドクラックでそれなりにしんどく、1ピッチで抜けるが、完全に息が上がる。
P2(5.10、Ⅴ)
1ピッチ目 出だしは大きくえぐれておりエイドを交えて乗っ越す。続くスラブも細かく気が抜けない。
2ピッチ目 簡単な移動ピッチ。ピークの中央を走るワイドクラックの正面に位置するところで区切る
3ピッチ目 細かいホールドを繋いで左側から中央のワイドクラックに入る。寝不足のせいか、妙な高揚感に包まれ身体がよく動く。ワイドの抜け口もニーロックで両手を離してレストするくらいの余裕があった。素晴らしい高度感で、左右を見ると紅葉に染まる山肌を前尾根と藤内バットレスの両岩稜が雄々しく断ち割るように走っている。大胆なムーヴでP2に抜け、いよいよ核心のP1取り付きへと下降する。セットしたロープに体重をかけチェックすると残置カラビナのゲート部分が割れてしまい、あわててしがみつき手持ちのカラビナを追加する。

・サードマン登場?
P1(5.9)
基部から一直線にワイドクラックが走っており、遥か上に終了点が光っている。是非とも全員であそこに立ちたい。高揚感はまだ続いていて、これが醒める前に登ってしまわねば。ありったけのギアを貰うと早速登りだすが、肩と膝を効かせて数手登ると次第に難しくなってきて、一気に気持ちが現実に引き戻されてゆく。岩も脆くカムの効きも怪しくなってきた。 ただでさえ固くてでかい図体を無理やりクラックにねじ込んでジリジリと這い進んでゆくが、どんどん狭くなってきて完全に行き詰まる。ワイドクラックの外に出ようにも外には掛かりの悪いフィンガークラックしかない。もうカムにぶら下がってしまおうかと思った矢先、背後に人の気配がする。その御仁曰く「敗退は誰でもできる。敗退の理由はいくらでもある。」これってもしかしてサードマン現象?ここでぶら下がろうものなら、何を言われるか判ったもんじゃない。苦心して#0.3をクラックにねじ込み、残った気力と体力を総動員してクラックから抜け出てレイバックで何とか抜け、広くなったところでまたワイドクラック内に戻り、温存していた#5をセットする。喉はからからに乾き、目の前もチカチカしてきたが這う這うの体で終了点のボルトにクリップする。「やった~!」年甲斐もなく声が出る。40分くらい粘っていたらしく、フォローを上げるには時間が足りずそのままロワーダウン。迫る夕暮れの中、P2の基部まで下降しデポを回収し、さらに下降を続けるも案の定迷ってしまい、お約束のヘッテン行動を強いられる。
1時間くらいかかって復旧し一般道に出たところで小休止。行動職はとうに食べつくし、興奮が冷めた後の倦怠感に力なく座り込んでいると、Yさんが「ホイ、これ」とザックの中からグレープフルーツを取り出す。ただでさえしんどいのにこんな重たいものを…。勧められるままに噛り付き、渋みが効いた果汁をしみじみと味わいながら、今は確かな幸福感に包まれていることに気づく。もう今さら何も迷うまい。行動終了は21:00。福岡出発から24時間行動だった。

10/25 広島へ移動
予報通り雨強し。広島まで下ると晴れているようだったので、400kmほどを戻り、三倉岳のキャンプ場にて幕。
10/26 三倉岳蒼白ハング周辺の岩場。
未だに痛む体を庇いながらゆっくりとアプローチを上がる。こちらは雨が降っておらず、完璧に乾いている。まずはムカデトラバース5.9を触るが、やはりここは三倉。そう簡単には登らせてくれず、御在所で芽生えかけたワイドの自信が跡形もなく吹き飛ばされる。Uさんと「来年はカリフォルニアドリーミングだ~!」と盛り上がってしまい、そこらにあるスラブを手あたり次第登って終了とする。
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