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滝谷第四尾根


日程 2023.3/28~3/31

メンバー 田中、山本


今年の春はフリーに集中しよう。

そう考えていたのだが冬の課題が不完全燃焼となってしまい、気持ちが切り替わらず悶々とフリーをやるでもなく山をやるでもなく怠惰に日々が過ぎてしまっていた。


3月末に田中さんと奇跡的に休みが合い、何処に行くかと並べ立てたプランの中に今回の滝谷第四尾根があった。

こんな宙ぶらりんの意識、運動不足の身体で滝谷に行けるのか?と半信半疑であったがこんなときに限って天気は良いらしい。

出発二日前になって計画書を作り始め、やっと心が切り替わった。

初めての滝谷、憧れの滝谷。

登ってみよう!!


3/28

21:00大阪にて田中さんと合流〜2:00新穂高温泉駐車場


3/29

新穂高温泉駐車場6:30出発〜滝谷避難小屋〜雄滝〜ナメ滝〜C沢〜スノーコル


3/30

スノーコル〜第四尾根取り付き〜ツルムのコル


3/31

ツルムのコル〜第四尾根トップアウト〜稜線〜D沢〜ナメ滝〜雄滝〜滝谷避難小屋〜新穂高温泉


大阪で合流し2:00新穂高温泉駐車場到着。

仮眠をとって4:30起床。

綿密な打ち合わせ、装備の擦り合わせが出来ていたとは言えなかったので朝からパッキングをおこなった。慌ただしい早朝、数十秒間の熟考の結果、装備を大胆に減らして26Lと35Lザックに行動3日+予備日1日分の食糧装備と登攀具を無理やり詰め込む事にした。

6:30スタート

ヒイコラ歩きながらアプローチをこなす。

デブリ帯を何個か乗り越え滝谷へ。



滝谷はまさしくデブリの巣、遠目に見える雄滝はジャバジャバ水が流れている。

雄滝に近づくと先行パーティの人影が。ちょうど雄滝を乗り越えたところのようだ。雄滝は右岸側の雪壁から登り高巻きすることに。雪壁をノーザイルで取り付くと上部は氷化しておりアイスクライミング状態となってしまった。立木でセルフを取りロープを出す。2ピッチロープを伸ばしてトラバースし雄滝を巻き終わる。念のため持ってきていたアイススクリュー2本が役に立った。




滝谷の奥を見るとナメ滝がこちらもシャーシャー流れている。

ナメ滝も当初脇を適当に登れるかと思ったが、薄化粧の雪の下は磨かれたツルツルスラブでほとんどアックスのピックがかからない、水線近くは極薄のベルグラ。中々悪くまたロープを出す。

こちらも2ピッチロープを伸ばしてナメ滝を乗り越える。滝の登攀で時間を食った。




そこからは延々と歩荷なのだが、途中C沢に入るはずがD沢に入ってしまい気が付き引き返す。

C沢をつめる頃には陽が傾き始めて壁についた雪氷が溶けてシャラシャラ流れてくる。シャラシャラ流れた塵雪が集積し雪溜まりが出来はじめている。良くない。

早く抜けたいが田中さんがバテてしまいペースは上がらない。ヒヤヒヤしながら頑張って歩いてなんとかスノーコルに到着。

スノーコルには先行パーティのテントもあった。

整地してシェルターを張り、日没と共に行動終了。

もっとサクッとスノーコルまで着く予定がかなり時間がかかり翌日の行程に不安を覚える。







朝起きると田中さんの寝袋が結露で濡れといると言う。濡れたまま寝袋を畳むと凍りついて寝袋がダメになってしまうので火を焚いて暫く乾かすことに。

5:30スタート予定で、ちょうど5:30に先行パーティが動き始める。我々は6:30登攀準備完了し、先行パーティが1P目を登り終えるのを少し待ちスタート。登攀開始時刻は6:40頃?


1P目田中リード

部分部分悪い箇所があり、動きが立体的だった

りで緊張する。プロテクションは部分部分カムが取れた。ナイスクライミング!



2P目山本リード

Aカンテ。カンテ部分はしっかりスタンスホールドを拾う必要があり緊張感がある。ルート全体で見ると登りやすいピッチ。



3P目田中リード

Bカンテ。Aカンテよりスタンスホールドがより細かくなりバイルでフッキングを決めながら通過。こちらも緊張感がある。





4P目山本リード

歩きピッチ。ナイフリッジなので慎重に通過する。唯一の癒しピッチ。


5P目山本リード

Cカンテ。ルート全体で見ると一番悪かった印象のピッチ。当初は田中さんがリードで取り付くが出だしのツルツルCカンテを突破できずリード交代。

Cカンテはバイルを割れ目に差し込みトルキングを決めながらマイクロスタンスにアイゼンの刃先を慎重に置いて前進する。トルキングやフッキングは気持ちいいくらい効くがスタンスが細かいので腹筋に力が入った。Cカンテのドライ部分はプロテクションが取れるが、ミックスになった上の部分はプロテクションが取れずまた悪い。ランナウトしながら効いてるかわからない薄雪の下の岩の何かにフッキングし、スラブにアイゼンでフリクション効かせたり、岩にへばりついた薄雪になんとなくアイゼン効かせたりの前進で痺れた。

ロープを引っ張ると先行パーティに追いつく。




6P目田中リード

田中さんが前のピッチでだいぶメンタルダメージを受けた為、ツルムの上までロープを伸ばさず途中でピッチを切る段取り。凹角に入り込み奥の数mのチムニーを登ったところでピッチを切る。チムニーはザックがあると邪魔なので手前でおろして荷上げした。

このピッチ終了時に水分カロリー補給のため一息入れる。



7P目山本リード

このピッチも悪かった。微妙なフッキングで強引に体を引きつけたり足を上げたりが必要で緊張する。スタンスも良くない箇所がある。傾斜もある。ところどころランナウトする。何度か田中さんにビレイお願いしますと声をかけながら前進した。

ツルムの頭の手前でビレイ点を構築しピッチを切ると先行パーティが最終ピッチをリードしている。フォローの田中さんが苦労し時間がかかっている。その間に先行パーティは完全にトップアウトし歓喜の声を上げて稜線まで駆け抜け消えていった。もう陽が落ちる。Cカンテまでは悪くなかったが、Cカンテからスピードが明らかに落ちている。これからは如何に一晩越すかに思考を切り替える。


8P目ツルムから懸垂下降

ビレイ点から少し先のピナクルに先行パーティが残した捨て縄がかかっていたので、ありがたく使わせてもらった。

20mほど斜面を懸垂下降で降りるとツルムのコルに着地。


コルはナイフリッジ化しており、特にC沢側はストンと切れ落ちていて狭く恐ろしかったが、なんとか整地して今宵の宿を作ることにした。

時折風が吹く中のシェルター設営は緊張感があった。万が一シェルターが飛ばされたら一晩を越すのが難しくなる。

カムでビレイ点を構築してシェルター内でも常にセルフを取った状態で行動、就寝した。

朝寝袋を乾かす為にガスを割と消費してしまっていた。本来の予定より手前の位置にいる現実から最悪もう一晩ビバークを考えておかねばならない。ガスを節約するため湯を沸かさず水を飲み、食べる食糧を削った。夜は昨晩より冷え込み寒かった。



昨晩はお互い寒くて全く眠れなかった。

田中さんは一晩中ガタガタ震えていた。

トップアウトはもちろんしたいが、この日の第一目標は下山すること。

最悪想定でコルからD沢側へ雪面のルンゼを降りエスケープも視野の片隅に入れた。

6:30行動開始


9P目山本リード

トポではクラックのフェイスとなっているがどうやら先行パーティは右のミックス壁を登っているようだ。どちらが良いか少し思案したが、岩にへばりついた雪や氷の具合は朝イチで締まっており悪くないはずと考え右のミックス壁から登ることに。取りついてみると序盤はカム、ナッツが効いたが以降全くプロテクションが取れず結局怒涛のランナウトとなった。落ちれない状況で微妙なフッキングやアイゼンワークを強いられてやっぱり悪かった。最後マントル気味にミックス壁を越えると安堵の声が出た。個人的に全体を通して2番目に悪いピッチだった。ロープを引っ張り雪面をトラバースし岩場の下でピッチを切る。


10P目山本リード

中々良い場所まで来ている気がするが、ここを越えれば終わりなのかもう一つ待っているのか。モヤモヤしながらスタートする。

取り付くとチムニーぽく見た目ほど簡単ではなかった。しかしカムも効くしガバもあるこのくらいのクライミングが今はちょうど良い。

岩を越えるとリッジに出た。

リッジの先には岩場はなく稜線に続く雪壁があるのみ。

「ヨッシャー!!ヤッタ!!」

ロープを引きずり終了点のボルトにクリップ。

澄んだ空気がこの上なく美味い。

田中さんを引き上げお互いの健闘を讃える。

しかし下山するまでが勝負。

改めて気を引き締め直す。

10:50登攀終了







田中さんがロープを引っ張り稜線までコンテで歩く。稜線まではすぐそこに感じ100mも無い印象。稜線の縦走路の安定した場所でロープをたたみ最低コルを目指し下山開始。

もしトップアウトが昼を回っていたらD沢の下降は雪の融解具合から念のため諦め涸沢岳西尾根を下降も検討していた。

稜線を降り最低コルからD沢に入る。

雪をなるべく刺激しなそうな山側、日陰側を選びながらグイグイ降る。

シャラシャラ流れる雪で沢の中心部の雪面に溝が出来てなんだか気持ち悪い。やっぱり雪崩れの巣、雪の沢筋なんて好き好んで入るもんじゃない。

日差しが強くて頭がクラクラしだし慌ててサングラスを付ける。ザックを降ろすのを面倒がらずに早くサングラスをつけるべきだった。

以降徐々に頭痛。



ナメ滝に到着。すると昨日下山したであろう先行パーティのスノーボラード跡を発見。念のためハーケンをバックアップで打ち込みスノーボラードで1本目の懸垂下降。

次のポイントでもスノーボラードがあり、こちらは丈夫そうだった為そのまま2本目の懸垂下降。

着地しロープを再びたたみ雄滝へ。


雄滝に到着。この頃には山本は頭痛に加えて発熱。解熱鎮痛剤は持っていたが万が一ロープワークに支障をきたしたら嫌なので我慢する。

懸垂下降出来る立木までの1ピッチのトラバースが雪が溶けて悪そうに見える。

滝の縁にハーケンを叩き込み懸垂下降出来ないか試すも良いリスが無く徒労に終わる。

体調絶不調なので田中さんにトラバースをお願いする。トラバースでは一箇所アイススクリューを使用した。時間はかかったが無事トラバースし懸垂下降一本で雄滝の下に着地。

ここで解熱剤を飲み少し楽になる。

あとは深いシュルントに注意し慎重に歩き滝谷避難小屋まで。


滝谷避難小屋で小休止。

小屋内でへたり込み給水カロリー補給。もうチョコレートは食べたくない。

小屋に置いて行った山本のストックが無くなっていた。

「そんなことはもうどうだって良い。

あと3時間頑張って歩いて下山するだけだ。」

そんなことを言いながらも足場の悪いデブリ帯があるので田中さんが片方ストックを貸してくれた。デブリ帯を越え歩き易い林道に入っても当然のようにストックを返却せず黙々と歩く。

下山完了するまで断固ストックは死守する心積りであった。

林道歩行中は、下山し美味しい飯を食うことそれだけをモチベーションに足を動かし続けた。

途中喉が渇き二人して這いつくばって林道を横切る雪解け水に直に口を付けて水を啜る。

水以外の物も吸い込んでいる気がするが全く気にならない。

駐車場到着直前ふと横を見ると壁を有する良さげな山が見える。看板を見ると笠ヶ岳、穴毛谷と書いてある。また行きたい場所が一つ増えた。

駐車場到着後、速攻でホテルを予約し飯屋を探す。奈賀勢という定食屋さんでテッチャンうどんを食べる。死ぬほど美味しい。美味しいを通り越して染みた。完全にカロリー不足で飯を食うまで悪寒が止まらなかった。飯を食ったら急激に回復。更にホテルで温泉に入り暖かい布団に入ると生き返った。


翌日名古屋まで車を走らせ山道具屋を物色し解散。




今回良かった点としてザック26L、35Lに納める大胆な軽量化を決断出来たこと。しかし装備を事前にもっと詰めて考えていたらまだまだ削れる荷物があった。

改善すべき点筆頭は食糧の見直し。終盤カロリー不足で体調不良になってしまった。単純な重さとカロリーだけ見てスニッカーズ等のチョコバーばかり齧っていたが恐らく胃腸が弱りカロリーを吸収しきれていなかった。肉体的にも精神的にもストレスがかかるからこそ重さとカロリーの数字も大切だが吸収可能な食糧を考える必要がある。少なくとも自分には毎日アルファ米とラードは無理と悟る。まだクスクスを毎日食べた方が良さそう。下山後10日間くらい胃腸が本調子でなかった。

あとカロリーばかり気にして塩分が足りなかった。一日目の晩だけフリーズドライのチゲスープを飲んだが美味かった!不足していた塩分が身体に染み渡った。ただし辛すぎるのは汗を無駄にかくので良くない。

他の反省点は単純に体力をつけること。登攀力はもちろん必要だが体力がないと物事が始まらない。体力が有れば余力を持って悪いピッチも攻略出来る。体力が有ればスピードも上がる。体力が有れば精神的にも余裕が生まれる。


私にとって今までの経験を詰め合わせたような山行だった。

7年前の4月、中島さん今村さんと行った剱岳八ツ峰主稜縦走でナイフリッジに幕営した。ナイフリッジでの幕営経験自体も非常に役に立ったのだが、その際中島さんから、日が暮れる前に切り替え幕営やビバーク態勢をしっかり作ることが大切と教わった。追い込まれる前に安全地帯を作る。このことは一昨年末の北岳バットレスでも役に立った。ヘッデン上等でガンガン登るスタイルもカッコいいが、今の自分の力量だとリスクを極力減らす行動スタイルが冬季クライミングでは合っていると感じる。ただしもっともっとスピードは上げたい。

毎年行う年末山行では2016年黄蓮谷左俣、2017年宝剣岳中央稜、2018年屏風岩雲稜と三期連続敗退。敗退は続いたが経験は蓄積出来たと考えている。少なくとも逃げ足や敗退力といった不名誉な自信は着いた...。逃げれる自信があるから登れる側面もあると思う。

一昨年末の北岳バットレス第四尾根で冬季クライミングでのランナウト耐性が多少身に付き今回の登攀に繋がった。たぶん北岳バットレスに登っていなかったら今回登れていなかった。クライミング中は一度もテンションをかけることなく登ることが出来た。

今年1月の三峰川岳沢(敗退)では今までの軽量化の考え方を少し変えザックの小型化を実践してみた。これには手ごたえを感じており今回の装備軽量化に繋がった。


3月末の滝谷第四尾根は強い人からすればサクッと登れるルートかもしれないが、私にとっては総合力の試される素晴らしい経験となった。

今回は天候、コンディションに大いに助けられた。

次は来るときは厳冬期の滝谷だ!!

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